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指宿_神話紙芝居_急がは回れ

更新日 2020年04月16日

急がは回れ

木挽っどん〔の職〕で、鹿児島イ、木挽キ行たっ〔働いている人が〕おって。こんだ、「一ロ千貫話」ちゅがあって、 〔その話は〕どしこか銭ヌバ出さんナ聞かれんたったちナ。「急がば回れ、うまい物食て油断すっナ」チ、 話があって。ほして、そゆバ聞たやナ、

---そん人は、そゆバ聞こごっあって聞たやナ、

---今迄とった銭が、 何じゃい無ごんなったが、ないでん。ほして、外んん衆は「馬鹿んョな、そんな話ュ聞っよっかい、船からでん乗って、 ひん戻った方が良かろ」ちゅて、船イ乗ったや、そん衆は難船に会っナ、死んだチ。で、そん人は糾んで戻らんナならんわけやっとおナ。 ほして、何とかちゅうことわざを、そい(話の語り手)が言わってナ。何でんかんでん、そん通イ戻ってみたが、なんでん。 もう、師走の二十九日の晩じゃったちナ。そして『〔我が家には〕カットシュ(いろいろのところ)から借銭取イが来ちょっはっじゃが、 銭ナ何じゃい持って戻らんじゃったが!』と思っナ、

---我が家は、もう、ひっ破れ戸壁あったかもナ。

---そろいと、こうして〔家の中を〕 見てみたやナ、

---あん、お寺ん坊ん様ん草履ャ、白か緒がたっじょっでや、はらナ。ほいで、そゆバ見たや、

---「お寺ん坊ん様が来ちょっど、こら」 チ思っナ。そして、中から飛っ出はならんごっ突張ュこうてナ、前ん方から、ちょっチ、入っていったチ。そしたや、〔家の中では〕も、 あわてっナ、家内が、いっき、櫃の中ィ投ん込んだチ、坊さんヌ。ほして、「お前や、誰てろが家かイも、借銭取イが来た」チ、 「誰ゲ家かイも借銭取ィが来た。早よ、今夜ん中チ、そら、銭ヌ持っ行たっ来」チ〔言った〕。〔それで〕「俺ヤ、鉄ナ持っこんじや った。」チ、ゆたやナ、[持って来んじゃったなら、済まんこっじゃっどん、また、マいっ時、待ってくれチ、延ばしケ行け。」チ、 そん女子がゆたチ。〔男は〕「んにゃ、も、仕方はネ。なか。」ちゅっナ、「そいなら、そえんすっで縄を持って来ェ」じゃったチ。そして、縄を持って 来てナ、

---そん櫃も、ガンタレ櫃じゃったどだいナ。

---縄を持って来て、そユ(櫃を)縛イかたに、うったったチ。 櫃をバ。そして、ま、縛ィたくって置っ、「わや(お前は)、そこん先を担エ」チ、ゆっナ、〔櫃を二人で〕担っ、 お寺ん坊様が家ヘナ、「こん櫃バ、抵当ィたつっで、銭ヌ貨っくいやったもす」チ、行たチ。そしたや、お寺ん奥さんがナ、 「こえな櫃〔を〕何すいか!ガソタレ櫃〔を〕! もう、一銭ガッも無かワィ」ちゅたチ。ほしたや、「ええ、そうか」チ、 「銭ナ貨っくやならんか?」ちゅたや、「貨さん」チ、ゆたチ。「そんなら・・・・・・」

--- じっ縛ってあっ、幾所か縛ってあっで、一気には解かならんたっでやナ。

---「そんなら、そケ(そこへ)石油を買け行たっ〔来て〕、焼ったくっ。そげな、 一銭ガッも無か品なら」ちゅたやナ、〔櫃の中から〕「俺が入っじょっで、早ゅ、銭ヌそしこ出っくれ」ちゅたチ。 「そんなら、一気、もう、そえんせんなら」ちゅたなら、〔奥さんが〕銭ヌバふてこっ (大金を)やったちゅわいナ。 そして、「そんなら、幾日ずい、持っ来っデ......。」

---〔その〕人間がもう、こたえんばっかいの事ッ(出来そうにもない事を)、 言たたろだい。十日なら「十日したとっ持っ来っで。」チ。そん時〔に〕、櫃には 〔封〕印ヌきって置っナ。

---「こん櫃〔の縄を〕バ解っナ」チ、「宝が入っちょっで解っナ」ちゅっ。ほしたや、 人間が入っじょっもんじやっで、解かんナすまんたっでやナ。解たや、〔前の〕銭ヌ取っちょって、ほして、〔その上にまた〕 「こん櫃をバ、印のとこいバ解だネ。こいナ(これには)まだ、そいから上ん宝が入っじょったたいが、そいが無かごっなっじょっ」 チ。そして、 「どしこん、また、罰金〔を〕やれ」ちゅっナ、お寺から〔大金を〕とったチ。

〔話者 木之下 木之下金蔵(明治三十八年十月八日生)〕